小説 新「人間革命」

法旗58








 松山駅から午後二時二十三分発の予讃本線(現在の予讃線)・特急「しおかぜ2号」に乗車した山本伸一は、香川県の高松に向かった。

 車窓には、曇り空の下に、穏やかな瀬戸の海が広がっていた。深い緑に染まった大小の島々が浮かび、一幅の名画のようであった。

 “さあ、次は香川だ!”

 胸を躍らせながら、伸一は思った。

 “人生とは、一冊のノートに似ている。日々、ページをめくると、真っ白な新しい空白が広がっている。そこに、力の限り、大叙事詩を書き綴っていくのだ。

 昨日も、今日も、明日も、あの人、この人に、励ましの声をかける。肩を叩き、抱きかかえ、その胸に生命の共鳴音を響かせる。幸福の道を示し、共に歩みを開始する。それが広宣流布だ! それがわが人生だ!”

 同時に伸一は、広布第二章の「支部制」の発足というこの時を契機に、全同志が心を新たにして、自身の人生ノートに、共に勝利の大叙事詩を書き綴ってほしかった。

 彼は、思わず、すべての愛する法友たちに、心で語りかけていた。

 “私は、見ている。見守っているよ。

 弱ければ、強くなればよい。臆病なら、勇敢になればよい。裸のままの、ありのままの自分でよい。その人が、法旗を手に敢然と立ち上がるからこそ、何よりも尊く、大いなる共感が広がる。困難はドラマの始まりだ。逡巡は挑戦へのステップだ。苦闘は感動を生み出すためにある。胸を張り、腕を振り、勇気の一歩を踏み出すのだ。時は今だ!”

 伸一の瞼に、使命の法旗を翻し、広布第二章の決戦に馳せる師子たちの勇姿が浮かんだ。

 彼は、逸る心で、かつて戸田城聖が詠んだ歌を思い起こしていた。

  

  旗もちて

    先がけせよと

       教えしを

   事ある秋に

      夢な忘れそ (この章終わり)